STORIES

STORIES

フレンチ・アール・デコの室内装飾と素材のストーリー 1

category: Alexander Lamont release: 2020-06-01 (Mon)

image01

フレンチ・アール・デコの室内装飾に見る稀有な素材を独自の解釈で扱うアレキサンダー・ラモント。このブランドの素材について解説するストーリー第一回。

「アレキサンダー・ラモント」は、家具・装飾小物、パネル材を製作する会社です。弊社エルクリエーションが輸入するこの会社のアイテムは、取り扱いを始めるまではその世界観にあまり馴染みがなくて、どう捉えたら良いかわからないような雰囲気を持っていました。私がこのブランドを扱うきっかけになったのは、知り合いのイタリア人を上海に訪ねたときのことです。彼女がマーケティング戦略を担当する会社について「ちょっと意見を聞かせてくれない?」と言って広げたのが、様々な手法によるラモントの小さな素材サンプルでした。竹に似た寄木細工、細かい粒子を持つスキン、それに日本で伝統的に使われる漆や金箔。何かまとまりがないような気もして、ただどれもが存在感があり、「これは何?」という不思議な気持ちでカタログを持ち帰ってきたのがエルクリエーションがスタートした2013年でした。

 

その素材たちが何かという疑問は、アレキサンダー・ラモントの工場を訪れてからはっきりとまとまりを持った形で見えるようになってきました。バンコクの郊外にある工場を訪れた私を満面の笑みで迎えた社長のアレックスは、私を真っ先に彼のスタジオへ連れて行き、壁一面に並ぶ工芸品や素材に関する書籍の中から何冊かの本を引っ張り出しました。「私はこの時代の素材が好きで、当時のデザイナーたちに影響を受けた物作りをしているんだ」と言って目の前に置いたのは、ジャン・ミッシェル・フランク、アンドレ・グルー、ジャン・デュナンといった名前が表紙に書かれた書籍でした。

 

sirena alex portait2

 世界中の工芸品や素材の書籍で溢れるアレックスのスタジオと新作のデザインをするアレックス

 

1920年代 – 1930年代を中心に活躍したこれらの人々は、フレンチ・アール・デコの時代、凝った工芸技術によるマテリアルで室内を装飾したデザイナー達です。アール・ヌーボーの有機的デザインの時代を経て、次の時代に当たるアール・デコにおいて新たに加わった特徴は、より単純化された直線・幾何学を使ったシンプルなフォルムでした。そこで空間をラグジュアリーにするための手法として注目された一つが「素材」です。ジャン・ミッシェル・フランクは、室内の壁にライ麦の寄せ細工であるストロー・マルケタリーやパーチメント(羊皮)といった素材を使用しました。マイカ(雲母)、シャグリーン(エイ皮)などで室内の装飾品をデザインしたことでも知られています。いづれも生産に手間のかかる凝った素材で、当時の富裕層に人気を博しました。

 

19 19

ジャン・ミッシェル・フランクがデザインした調香師ジャン=ピエール・ゲランのための室内装飾

壁面にパーチメント(羊皮)を使用、1930年代

 

フランス語でガルーシャと呼ばれるシャグリーン(エイ皮)は、刀剣の柄や印籠などに使用されてきた日本では古くからある素材です。ミッシェル・フランクに加え、クレモン・ルソーやアンドレ・グルーといった家具デザイナーが硬くて加工が難しいけれど、象牙のような艶を持つシャグリーンを使い高価なテーブルやキャビネットを製作しました。パリ装飾芸術美術館に収蔵されるグルーの作った美しい曲線によるキャビネットは、アレックスが感嘆したという家具の一つです。高い加工技術と機能性、自然のエイ皮の持つ質感とバランスの良いパターンの並べ方を持ったアイテムで、彼の作品は1925年のパリ万国博覧会でも注目されました。グルーはその時代、モダンと古典の感性を上手く融合させる手法を見せたデザイナーとも言われています。

 

alexander lamont art deco 01

パリ装飾芸術美術館所蔵 アンドレ・グルーによるシャグリーン製キャビネット 1925

 

またこの時代、ジャン・デュナンやアイリーン・グレイは、漆工芸の手法を日本人の漆芸家である菅原精造から学び、東洋が注目された当時のニーズにも応えました。ジャン・デュナンは、客船ノルマンディー号の室内装飾を依頼され、2つの大戦の間の時代に、フランスとアメリカを行き交う豪華な船旅の室内を凝った素材で飾ったことでも知られています。調べるほどにストーリーに溢れる当時の素材こそが、アレックスが影響を受けたマテリアルであり、そこからインスピレーションを得て作るアレキサンダー・ラモントのコレクションは、素材こそに最も特徴を見ることができます。

 

21 21

アイリーン・グレーがデザインした漆塗り屏風スクリーン, 1922年

 

時代がモダニズムに動いた1920-30年代のアール・デコデザインは、現代のヨーロッパでもとても人気があります。その典型的なエッセンスである放射線や直線、幾何学文様、南洋材・ガラス・クローム、エジプト・アジア・アフリカのエキゾチックな要素は、パリの新たに改装したホテルやレストランで多く見られます。また、左岸のサン=ジェルマンデプレ近辺にはフレンチ・アール・デコの家具を扱うギャラリーがいくつかあり、小さなシンプルなスツールでも当時のオリジナルアイテムだと相当な高額品で、あるギャラリーのオーナーが言うには、主にはインテリアデザイナーが個人の顧客に紹介するために選ぶことが多いとのことでした。現代の住宅を中心に、今でも当時のスタイルを好むコレクターから選ばれるスタイルであることが想像できます。アレックスは、この時代の素材についてを特に研究し、独自の感性でコレクションを作っています。

 

エルクリエーション 代表 高田真由美