シャグリーン
アレキサンダー・ラモントの家具・照明・装飾小物の表面に使用され、デザインの美しさを際立たせている素材がシャグリーンです。無数の象牙質にも似る細かい粒子により、美しく反射をする質感を持つこの素材は、英語で「シャグリーン(shagreen)」、フランス語で「ガルーシャ(galuchat)」と呼ばれ知られているエイ皮もしくは鮫皮です。日本においてはかつて武士の甲冑や刀の柄など武器を装飾する素材として使用されてきたルーツを持ち、後に、ヨーロッパにおいてこの非常に強度があって光沢の美しいスキンを高価なボックスに張ったり、科学の分野で使用する道具として用いてきました。ヨーロッパにおいて最も有名になったのは、アール・デコの時代にインテリアデザイナーであるジャン・ミッシェル・フランクやクレモン・ルソーといったモダニスト達が、エイ皮を家具や照明のコレクションに使用したことにあります。
アレキサンダー・ラモントの工房で創業当初に初めて取り組んだ素材がシャグリーンでした。ルーブルにあるパリ装飾芸術美術館において修復を手がけるジャン・ペルフェッティーニによる指導により、伝統的に使われてきたエイ皮の加工技術をタイの職人たちは習得し、他に類を見ない素材を美しい芸術的感性で作り続けるラモントの基礎を作りました。アレキサンダー・ラモントでは、環境にも優しいなめしていないエイ皮のみを使用しますが、そのスキンは強度がより強く、出来上がりが精巧で優しい手触りを持ち、無数の粒子の自然なトーンがとても美しい質感を持っています。それは時間が経つほどに透明感が増し、経年の変化により質感が楽しめる素材です。
ストロー・マルケタリー
1925年頃に、長らく忘れられていた素材であるストロー・マルケタリーが再度紹介されるようになったのはアールデコの時代のデザイナーであるアンドレ・グルーやジャン・ミッシェル・フランクによる功績によるものです。アレキサンダー・ラモントでは、このストロー・マルケタリー素材を家具、照明、装飾小物、ミラーのフレーム、そしてパネル商材として制作しています。もっとも大きな特徴となるのは、素材そのものが持つ性質による光の反射です。自然なゴールド調の色目を持つ素材を更に染め、最終商品を仕上げています。ストローを準備し、染め、嵌め込んでいく作業には長い時間がかかり、熟練の作業による緻密な工程を取ることで進められます。それぞれのアイテムが持つ美しさはすべて、時間をかけて作られた結果得られるものとなっています。
アレキサンダー・ラモントでは、ストロー・マルケタリーの材料としてフランスで取れるライ麦を輸入し使用しています。このライ麦は2mほどの高さがあり、その途中には節があります。この節を除きながら30cm程度に短くカットし、中が空洞となっている茎を縦にカットして開き、素材がフラットになるよう上から押さえ、熱でフラットにします。リボン状となったストローは水性の染料で色付けされ、デザインに応じてさらにカットし基材に張り込んでいきます。ストロー・マルケタリーは自然素材のため、染め上がった一本づつのストローのリボンはそれぞれ色が異なります。全体に美しいバランスでストローを嵌め込んでいくために適切なストローを選ぶ職人の目と、さらに緻密な作業により完璧に材料を嵌め込んでいく技術が、アートとも言える最終商品を作り出しています。出来上がったストローの自然そのものが持つ光沢は美しく、デザインや見る人の立つ位置や動き、光の当たり方によって全く異なる陰影に気付かされます。
漆
流れるような質感、深みがありスモーキー、そして磨かれることによる美しい艶を持つ「漆」。この素材は、まるで僧侶のように厳格で忍耐力があり、かつ慎重さであることを要求される工程により完成します。ラモントの漆工房では、1920年代にパリで活躍したジャン・デュナンやアイリーン・グレイといったデザイナーたちが日本人の漆職人菅原精造氏より伝授された方法と同じやり方を踏襲して漆の製作を行っています。独自の製法として、様々な異なる素材、例えば金箔やストロー(ライ麦)やシャグリーンといった素材を組み合わせをすることで全く新しい印象のアイテムも作っています。組み合わせすることによって出来上がった質感は、ヨーロッパと日本のクラフツマンシップが非常にうまく融合した結果の表現と言えます。
漆は木と種から抽出される自然の素材ですが、自然の漆を乾燥させるため、タイは湿度と温度において理想的な気候を有しています。漆は塗りと乾燥を時間をかけて繰り返すことによって強度が増す素材で、この意味においてタイは漆製造に向いている国なのです。アユタヤ朝の時代(1324-1767)に、タイは漆製造の主要な国でしたが、残念ながら現在では自然漆はほとんど生産されていません。ラモント では2009年から自然漆を使った製造を始め、装飾小物、家具を中心に商材を展開しています。
卵殻
アレキサンダー・ラモントの工房では、エッグシェルラッカー(卵殻)の技術を有しています。長時間にわたり丁寧に加工していくことが必要な卵殻の配置の過程には細心の注意が必要ですが、かつてアール・デコの時代にパリでジャン・デュナンが製作したアイテムを思い起こさせるような、生き生きとした動きを感じさせる作品を完成させることのできる職人が揃っています。誰もができる作業ではなく、また作る職人の感性により異なる表現に仕上がることもこの技術の魅力です。
製作工程では、砕いた小さな卵殻の裏側をピンセットを使用してジグソーパズルのように素材の表面に置いていきます。配置が完成したら表面が滑らかになるまで何度も何度も漆を塗り重ねていき、平滑になるまで更に磨きを加えることで卵殻のパターンにはさらに深みが生まれます。
箔
アレキサンダー・ラモントでは箔加工の工房があり、イタリア、中国、ミャンマー、タイの箔を、サイズ・色・強度に応じ使い分けています。タイの金箔は手でハンマー打ちし作られ、イタリアは機械ですが均等に薄く加工するには高い技術が必要です。非常に薄い箔は専用のナイフでカットし特別な用具で持ち上げて、ラッカーやシャグリーンやブロンズ、そしてストローマルケタリーの表面に手によって張られていきます。上質な金属箔の透光性によって美しい光沢が得られ、張られる素材には新たな一面が生まれます。箔は非常に薄いですが、こすったり過度に触ったりしなければ何年ももつ素材です。金は時間と共に若干程度の変色がありますが、アレキサンダー・ラモントでは本物の箔が時間の経過と共に色変化していくその自然のプロセスを美しさの一部と考えています。
パーチメント
柔らかな象牙のシートのような表面素材である「パーチメント」はかつては「羊皮紙」として知られ、伝統的に文字を書く素材として使われてきました。1920年代になって、装飾素材として使用されるようになりましたが、特に当時のモダニズムのデザイナー達がニュートラルでありながらラグジュアリーな質感を兼ね備える素材を求めたときに人気がありました。
アレキサンダー・ラモントでは家具・照明・オブジェの表面に微妙に変化するトーンの質感を表現するためにパーチメントを使用しています。また、素材にプリントする技術を開発し、素材の持つオリジナルの生の特性や質感を保持しながらプリントで柄を重ねていく方法で新たなデザインを作っています。
パーチメントは、牛皮・羊皮・ヤギ皮を使用した薄い素材です。なめしておらず、レザーに似ていますが、伸縮性があり、磨かれ、テンションをかけながら乾燥させることで硬く半透明なスキンとなります。染めと木の基材への張り込みには熟練の技が必要とされ、アレキサンダー・ラモントでは1920年代パリの職人が用いていた方法を踏襲しながら、10年以上かけて独自の工法を築き生産をしています。
ジェッソ
ヨーロッパの中世の教会の木製の彫像を飾る顔料や金メッキのベース素材として開発されたのが石灰・白顔料・動物性の膠から成るジェッソです。木像はキャンバス地で覆われ、次にジェッソを何層にも塗布し、間で磨きをかけていくことにより平滑な表面を作りました。白く、強く、滑らかで、最も重要なのは使用される兎膠が冬と夏の間に木材が伸縮に耐えるところにあり、また強度は炭酸カルシウム粉末を混ぜることで得られました。この素材は吸水性にも優れ、平滑な表面を作れるため、水彩・油絵・テンペラといったアートの世界における絵画の下地材としても古くから使用されてきました。
アレキサンダー・ラモント の工房では、ジェッソは素材の粉と兎膠を混ぜ合わせて作りますが全てが手作業で行われます。それに熱を加え何層にも塗り重ね、それぞれの層は磨かれ、完璧に滑らかな素材の層にし、更に様々なハンドフィニッシュを加えてマテリアルを完成させていきます。自然漆塗り、クラック、箔張りなど様々な技術をジェッソと融合させ、時に10層以上の薄い層を重ねることで凹凸の表面効果を作り、そのものがアートともなる革新的素材として仕上げています。また、壁面を飾るパネル材としてクラックの入った古い牙のパターンやモダンな直線的なラインワークによるデザインをご紹介しています。
ブロンズ
強度があり、デザインに自由度のある「ブロンズ」は、造形的素材としてヨーロッパ、アフリカ、アジアのデコラティブ・アートの世界で長年使われてきました。アレキサンダー・ラモントがその器やアートの製作に使用する「ロスト・ワックス・ブロンズ鋳造」は非常に古い製造方法で、不朽かつ原始的とも言えます。タイでは、仏像を製造するために伝統的にロスト・ワックス・ブロンズ製法が使用され、ラモント は、チェンマイで巧の技術を持つ鋳物師と出会って以来、この製法による造形を長年にわたり作り続けています。
ロスト・ワックス鋳造の製作では、まず作りたいブロンズそのものの造形モデルをろうで製作します。モデルが出来上がったらその上を砂で覆い被し、乾燥させ、熱を加えます。ろうでできたモデルは溶け、菅を通って外にでていき、中に造形モデルの形の空洞を残します。この時、ろうがなくなるのでロスト(lost)と言います。次に溶解したブロンズを空洞に流し込みますが、この時菅はドレーン溝のような役目となり圧力がかかるのを防ぎ、空洞はブロンズで完全に満たされます。その後外の砂は壊され、中のブロンズが残り、そこに磨きや質感の調整、色付けのフィニッシュ工程を加え完成させます。
アレキサンダー・ラモントでは、型やモールドは全てインハウスで製作しています。また、素材はブロンズまたは真鍮のどちらかを使用します。銅の含有量の違いでこの呼び名が変わりますが、含有量の多いブロンズは真鍮に比べてやや柔らかく、色調が濃色です。真鍮は強度が強く、薄くて軽いアイテムが欲しい場合に好まれて使われます。